賃料増減額請求における不動産鑑定評価手法の選択②
差額配分法が賃料増減額請求訴訟において、スライド法よりも高い割合で採用される傾向にある主な理由は以下のとおりです。
- 賃貸市場の実勢との整合性 差額配分法は、比準賃料と現行賃料の差額を賃貸人と賃借人の間で分配する手法であるため、賃貸市場の実勢を直接的に反映することができます。裁判所は、賃料増減額請求訴訟において、賃貸市場の実勢を適切に賃料に反映させることを重視する傾向があるため、差額配分法が高い割合で採用されると考えられます。
- 賃貸人と賃借人の利益調整の容易さ 差額配分法は、比準賃料と現行賃料の差額を分配する際に、賃貸人と賃借人の双方の利益を考慮することができます。この点で、差額配分法は、賃貸人と賃借人の利益調整を図るための有効な手法であるといえます。裁判所は、賃料増減額請求訴訟において、賃貸人と賃借人の利益の適切な調整を重視する傾向があるため、差額配分法が高い割合で採用されると考えられます。
- スライド法の限界 スライド法は、現行賃料に一定の変動率を乗じて適正賃料を算定する手法であるため、賃料の急激な変動を避ける効果があります。しかし、賃貸市場の実勢から大きく乖離した現行賃料を前提とする場合、スライド法では適正賃料を算定することが難しくなります。このため、裁判所は、スライド法の限界を認識し、差額配分法を高い割合で採用する傾向にあると考えられます。
- 鑑定評価の説得力 不動産鑑定士が賃料増減額請求訴訟において鑑定評価を行う際、差額配分法を中心とした評価手法を用いることで、説得力のある鑑定意見を形成することができます。裁判所は、不動産鑑定士の専門性を尊重する傾向があるため、差額配分法を高い割合で採用する鑑定評価を重視すると考えられます。
以上のような理由から、差額配分法がスライド法よりも高い割合で採用される傾向にあります。ただし、個々の事案の特性や賃貸市場の動向によっては、スライド法の割合が高くなることもあります。不動産鑑定士は、これらの点を踏まえつつ、適切な評価手法の選択と勘案割合の設定を行うことが求められます。
大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。