賃料増額請求訴訟における重要判例①
最高裁第一小法廷平成15年10月21日判決(平成12(受)573)
本件は、賃借人が賃貸人に対して敷金の返還を求めた事案です。賃貸借契約締結時に賃借人から賃貸人に差し入れられた敷金について、賃貸人は、賃料が不相当に低額であるとして、賃料増額請求権を行使し、増額された賃料との差額を敷金から控除すると主張しました。 原審である東京高裁は、賃料増額請求権の行使により増額された賃料との差額を敷金から控除することを認めましたが、最高裁は、以下のように判断し、原審の判断を破棄差し戻しました。
賃料増額請求権の行使により増額された賃料は、その請求の時から将来に向かって効力を生じるものであり、遡及的に過去の賃料の不足分を請求することはできません。また、敷金は、賃料の支払いを担保するために交付されるものであり、賃料とは別個の債権であるため、賃料増額請求権の行使によって増額された賃料との差額を敷金から控除することはできません。
本判決は、賃料増額請求権の行使の効力が将来に向かってのみ生じることを明確にするとともに、敷金と賃料が別個の債権であることを明らかにした点で重要です。賃料増額請求権の行使によって増額された賃料は、その請求の時から将来に向かって効力を生じるのであり、過去の賃料の不足分を遡及的に請求することはできません。また、敷金は、賃料の支払いを担保するために交付されるものであり、賃料とは別個の債権であるため、賃料増額請求権の行使によって増額された賃料との差額を敷金から控除することはできません。
本判決は、賃料増額請求権の行使の効力と敷金返還請求権の関係を明確にし、賃貸借契約における債権の性質についても重要な指針を示した点で、不動産鑑定実務に大きな影響を与えた判例といえます。賃料増額請求権の行使が将来に向かってのみ効力を生じることを踏まえると、不動産鑑定評価においては、賃料増額請求権の行使時点以降の賃料の増額分のみを考慮すべきであり、過去の賃料の不足分を遡及的に考慮することは適切ではありません。また、敷金と賃料が別個の債権であることを踏まえると、不動産鑑定評価においては、敷金を賃料とは別個の債権として扱い、賃料の増額分を敷金から控除することは適切ではありません。
大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。