実績・事例と専門知識

賃料増額請求訴訟における重要判例⑦

東京高裁平成15年2月13日判決(平成14(ネ)5063)

本件は、賃借人が賃貸人に対して賃料の減額を請求した事案です。裁判所は、継続賃料の算定における利回り法の位置づけについて、次のように述べました。 利回り法は、賃貸人の投下資本に着目した方法であり、必ずしも賃料の相当性を判断する上で適切な方法とはいえません。賃料の相当性は、賃貸借契約における当事者の協議により定められたものであるか否か、その後の賃料の改定の有無及びその態様等をも勘案して判断すべきであり、利回り法は、これらの事情を考慮せずに、賃貸人の投下資本に着目して賃料を算定するものであるから、賃料の相当性の判断基準としては適切ではありません。

裁判所は、利回り法が賃料の相当性を判断する上で必ずしも適切な方法ではないことを指摘するとともに、賃料の相当性は、賃貸借契約の当事者間の協議の経緯や賃料改定の状況等を総合的に考慮して判断すべきであると判示しました。 本判決は、継続賃料の算定における利回り法の位置づけを明確にした点で、不動産鑑定実務に重要な示唆を与えた判例といえます。不動産鑑定評価においては、賃料の相当性を判断する際に、利回り法のみに依拠するのではなく、賃貸借契約の当事者間の協議の経緯や賃料改定の状況等の諸般の事情を総合的に考慮する必要があります。 また、本判決は、賃料の相当性の判断に当たっては、賃貸人と賃借人の利益の調整を図ることが重要であることも指摘しています。

不動産鑑定評価においては、賃料の相当性を判断する際に、賃貸人の利益と賃借人の利益を比較衡量し、双方の利益の均衡を図ることを目的として行われるべきであり、賃貸人の利益のみを重視して賃料額を決定することは適切ではありません。 本判決は、不動産鑑定評価における継続賃料の算定方法の選択と考慮要素を明確にし、賃貸人と賃借人の利益調整の重要性を指摘した点で、不動産鑑定実務に重要な指針を提供したものといえます。

この記事を書いた人

酒井 龍太郎

アゲハ総合鑑定株式会社 代表取締役

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。

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