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賃料増額請求訴訟における重要判例⑪

東京地裁平成26年4月17日判決(平成24年(ワ)第28185号)は、継続賃料の算定における差額配分法の適用方法を詳細に示した事例として注目されています。

  1. 案件の概要 本件は、東京都内のオフィスビルの賃貸借契約に関する賃料増額請求訴訟です。賃貸人は、賃料が周辺相場に比べて低廉であるとして、賃借人に対して賃料の増額を請求しました。本判決の焦点は、継続賃料の算定方法、特に差額配分法の適用方法にありました。
  2. 判決の内容 裁判所は、継続賃料の算定に当たり、差額配分法を採用しました。差額配分法とは、賃貸借契約の締結時や直近の賃料改定時から現在までの間における賃料の変動分を、賃貸人と賃借人の間で一定の割合で按分する方法です。

裁判所は、差額配分法の適用に当たり、以下の点を詳細に示しました。

(1)賃料の変動分の算定 賃料の変動分は、契約締結時や直近の賃料改定時の賃料と、現在の適正賃料との差額として算定されます。現在の適正賃料は、不動産鑑定士による鑑定評価に基づいて判断されます。

(2)按分割合の決定 賃料の変動分を賃貸人と賃借人の間でどのように按分するかは、契約当事者間の事情を考慮して決定されます。本件では、賃貸人と賃借人の交渉力の差、契約締結からの期間、建物の老朽化の程度等を考慮して、賃貸人と賃借人の按分割合を60:40とすることが相当であると判断されました。

(3)増額賃料の算定 増額後の賃料は、契約締結時や直近の賃料改定時の賃料に、賃料の変動分に賃貸人の按分割合を乗じた額を加えることで算定されます。

  • 判決の分析 本判決は、差額配分法の適用方法を詳細に示した点で重要な意義を有しています。

第一に、本判決は、差額配分法における賃料の変動分の算定方法を明確にしました。賃料の変動分は、契約締結時や直近の賃料改定時の賃料と、現在の適正賃料との差額として算定されるべきであるとの判断は、実務上の指針となるものです。

第二に、本判決は、差額配分法における按分割合の決定基準を示しました。按分割合は、契約当事者間の事情を考慮して決定されるべきであり、賃貸人と賃借人の交渉力の差、契約締結からの期間、建物の老朽化の程度等が考慮要素となることが明らかにされました。

第三に、本判決は、差額配分法による増額賃料の算定方法を例示しました。増額賃料は、契約締結時や直近の賃料改定時の賃料に、賃料の変動分に賃貸人の按分割合を乗じた額を加えることで算定されるとの判断は、実務上の参考となるものです。

以上のように、本判決は、差額配分法の適用方法を詳細に示すことで、継続賃料の算定における実務上の指針を提供したものといえます。本判決の考え方は、類似の事案における賃料増減額請求の判断に影響を与えるものと考えられます。

この記事を書いた人

酒井 龍太郎

アゲハ総合鑑定株式会社 代表取締役

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。

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