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賃料増額請求訴訟における重要判例⑫

大阪地裁平成25年2月8日判決(平成23年(ワ)第8797号)は、スライド法の適用における変動率の上限設定に関する考え方を示した事例として重要です。

  1. 案件の概要 本件は、大阪市内のオフィスビルの賃貸借契約に関する賃料増額請求訴訟です。賃貸人は、賃料が周辺相場に比べて低廉であるとして、賃借人に対して賃料の増額を請求しました。本判決の焦点は、継続賃料の算定方法、特にスライド法の適用における変動率の上限設定の可否でした。
  2. 判決の内容 裁判所は、継続賃料の算定に当たり、スライド法を採用しました。スライド法とは、契約締結時や直近の賃料改定時の賃料に、一定の変動率を乗じて現在の適正賃料を算定する方法です。

裁判所は、スライド法の適用に当たり、以下の点を示しました。

(1)変動率の算定 変動率は、契約締結時や直近の賃料改定時から現在までの間における経済事情の変動を反映したものでなければなりません。具体的には、土地や建物の価格の変動、物価の変動、市場賃料の変動等を考慮して算定されます。

(2)変動率の上限設定 裁判所は、スライド法の適用に当たり、変動率の上限を設定することが許されると判断しました。その理由は、賃料の急激な変動を避け、賃貸借契約の継続性を確保するためです。本件では、変動率の上限を年5%とすることが相当であると判断されました。

(3)増額賃料の算定 増額後の賃料は、契約締結時や直近の賃料改定時の賃料に、変動率(ただし、上限は年5%)を乗じて算定されます。

  • 判決の分析 本判決は、スライド法の適用における変動率の上限設定に関する考え方を示した点で重要な意義を有しています。

第一に、本判決は、スライド法における変動率の算定基準を明らかにしました。変動率は、経済事情の変動を適切に反映したものでなければならず、土地や建物の価格の変動、物価の変動、市場賃料の変動等を考慮して算定されるべきであるとの判断は、実務上の指針となるものです。

第二に、本判決は、スライド法の適用において変動率の上限を設定することが許されると判断しました。この判断は、賃料の急激な変動を避け、賃貸借契約の継続性を確保するという観点から、実務上の参考となるものです。

第三に、本判決は、変動率の上限を年5%とすることが相当であると判断しました。この数値は、本件の具体的な事情を踏まえたものですが、他の事案においても参考となる基準を提供するものといえます。 以上のように、本判決は、スライド法の適用における変動率の上限設定に関する考え方を示すことで、継続賃料の算定における実務上の指針を提供したものといえます。本判決の考え方は、類似の事案における賃料増減額請求の判断に影響を与えるものと考えられます。

この記事を書いた人

酒井 龍太郎

アゲハ総合鑑定株式会社 代表取締役

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。

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