実績・事例と専門知識

賃料増額請求訴訟における重要判例⑬

東京地裁平成23年9月16日判決(平成22年(ワ)第33244号)は、差額配分法とスライド法の併用方法に関する裁判所の考え方を示した先駆的な事例です。

  1. 案件の概要 本件は、東京都内の商業ビルの賃貸借契約に関する賃料増額請求訴訟です。賃貸人は、賃料が周辺相場に比べて低廉であるとして、賃借人に対して賃料の増額を請求しました。本判決の焦点は、継続賃料の算定方法、特に差額配分法とスライド法の併用方法にありました。
  2. 判決の内容 裁判所は、継続賃料の算定に当たり、差額配分法とスライド法を併用することが相当であると判断しました。

差額配分法は、賃貸借契約の締結時や直近の賃料改定時から現在までの間における賃料の変動分を、賃貸人と賃借人の間で一定の割合で按分する方法です。他方、スライド法は、契約締結時や直近の賃料改定時の賃料に、一定の変動率を乗じて現在の適正賃料を算定する方法です。

裁判所は、差額配分法とスライド法の併用に当たり、以下の点を示しました。

(1)差額配分法の適用 差額配分法においては、賃料の変動分を賃貸人と賃借人の間でどのように按分するかが問題となります。本件では、賃貸人と賃借人の按分割合を70:30とすることが相当であると判断されました。

(2)スライド法の適用 スライド法においては、変動率をどのように設定するかが問題となります。本件では、変動率の上限を年3%とすることが相当であると判断されました。

(3)併用の方法 差額配分法とスライド法を併用する際には、まず差額配分法により賃料の変動分を算定し、その後スライド法により変動率を適用するという方法が採られました。

  • 判決の分析 本判決は、差額配分法とスライド法の併用方法に関する裁判所の考え方を示した先駆的な事例として重要な意義を有しています。

第一に、本判決は、差額配分法とスライド法を併用することが相当であるとの判断を示しました。この判断は、両手法の長所を活かしつつ、その短所を補うことができるという点で、実務上の参考となるものです。

第二に、本判決は、差額配分法における按分割合の決定基準を示しました。賃貸人と賃借人の按分割合は、契約当事者間の事情を考慮して決定されるべきであり、本件では70:30とするのが相当であると判断されました。

第三に、本判決は、スライド法における変動率の上限設定に関する考え方を示しました。変動率の上限を設定することは、賃料の急激な変動を避け、賃貸借契約の継続性を確保するために有効であるとの判断は、実務上の指針となるものです。

第四に、本判決は、差額配分法とスライド法の具体的な併用方法を例示しました。差額配分法により賃料の変動分を算定した後、スライド法により変動率を適用するという方法は、実務上の参考となるものです。 以上のように、本判決は、差額配分法とスライド法の併用方法に関する裁判所の考え方を示すことで、継続賃料の算定における実務上の指針を提供したものといえます。本判決の考え方は、類似の事案における賃料増減額請求の判断に影響を与えるものと考えられます。

この記事を書いた人

酒井 龍太郎

アゲハ総合鑑定株式会社 代表取締役

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。

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