実績・事例と専門知識

賃料増額請求訴訟における重要判例⑭

大阪地裁平成13年1月30日判決(平成10年(ワ)第8364号)は、継続賃料の算定における利回り法の位置づけに関する裁判所の見解を示した事例として注目されています。

  1. 案件の概要 本件は、大阪市内の事務所ビルの賃貸借契約に関する賃料増額請求訴訟です。賃貸人は、賃料が周辺相場に比べて低廉であるとして、賃借人に対して賃料の増額を請求しました。本判決の焦点は、継続賃料の算定方法、特に利回り法の位置づけにありました。
  2. 判決の内容 裁判所は、継続賃料の算定に当たり、差額配分法を基本としつつ、利回り法を補完的に用いるという判断を示しました。

差額配分法は、賃貸借契約の締結時や直近の賃料改定時から現在までの間における賃料の変動分を、賃貸人と賃借人の間で一定の割合で按分する方法です。他方、利回り法は、対象不動産の収益性に着目し、将来の純収益を一定の利回りで還元することにより、対象不動産の価格を算定する方法です。

裁判所は、利回り法の位置づけについて、以下の点を示しました。

(1)利回り法の限界 利回り法は、対象不動産の収益性に着目する方法であり、賃料の適正性を直接的に判断するものではありません。したがって、利回り法のみに依拠して賃料を算定することは適切ではありません。

(2)利回り法の補完的役割 利回り法は、差額配分法を補完する役割を果たすものと位置づけられます。具体的には、差額配分法により算定された賃料の妥当性を検証する際に、利回り法を用いることが考えられます。

(3)利回り法の適用場面 利回り法は、対象不動産が収益物件である場合に、より有用性が高いと考えられます。他方、住宅用物件など、収益性が重視されない物件については、利回り法の適用には慎重を要します。

  • 判決の分析 本判決は、継続賃料の算定における利回り法の位置づけに関する裁判所の見解を示した点で重要な意義を有しています。

第一に、本判決は、差額配分法を基本としつつ、利回り法を補完的に用いるという判断を示しました。この判断は、両手法の特徴を踏まえたバランスのとれた考え方として、実務上の参考となるものです。

第二に、本判決は、利回り法の限界を指摘し、利回り法のみに依拠して賃料を算定することは適切ではないとの判断を示しました。この判断は、利回り法の性質を踏まえた慎重な運用の必要性を示すものといえます。

第三に、本判決は、利回り法の補完的役割を明らかにしました。差額配分法により算定された賃料の妥当性を検証する際に、利回り法を用いることができるとの指摘は、実務上の有益な示唆を与えるものです。

第四に、本判決は、利回り法の適用場面について言及しました。収益物件については利回り法の有用性が高いが、住宅用物件等については慎重な運用が求められるとの指摘は、不動産の特性に応じた柔軟な手法の選択の必要性を示すものといえます。 以上のように、本判決は、継続賃料の算定における利回り法の位置づけに関する裁判所の見解を示すことで、賃料算定の実務に重要な指針を提供したものといえます。本判決の考え方は、利回り法の適切な運用と、不動産の特性に応じた柔軟な手法の選択の必要性を示唆するものであり、今後の実務の発展に資するものと考えられます。

この記事を書いた人

酒井 龍太郎

アゲハ総合鑑定株式会社 代表取締役

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。

弁護士向け不動産鑑定専門サイト

お問い合わせ

調停・裁判に特化した不動産鑑定ならお任せください。
不動産鑑定士が公正・中立な立場から鑑定いたします。