『若手弁護士のための賃料増額実務シリーズ 第2回 継続賃料の基礎知識』
賃料増額請求事件で扱う継続賃料について、新規賃料との違いを中心に解説いたします。実務において、この違いを正確に理解することは、依頼者への説明や方針検討の際に非常に重要となります。
■新規賃料と継続賃料の違い
1. 新規賃料とは
・新規に賃貸借を行う場合に成立する賃料
・市場価値を直接的に反映
・需要と供給の関係で決定
・賃貸人と賃借人の自由な意思で決定
2. 継続賃料とは
・既存の賃貸借契約における賃料
・従前の賃料が基礎
・契約の継続性を考慮
・賃料増減請求権の行使により改定
■継続賃料の特徴
1. 賃料決定要素の違い
新規賃料: 市場の需給バランス、類似物件の賃料水準 、物件の個別性
継続賃料: 従前の賃料 、契約内容との整合性 、賃料変動の諸要因
2. 重要な考慮要素
・直近合意時点からの経済事情の変動
・近隣の賃料との比較
・賃貸人の事情(建物の維持管理状況等)
・賃借人の事情(使用状況等)
■実務での具体例
【事例】オフィスビルの継続賃料
案件の概要
・用途:オフィスビル
・規模:30坪程度
・契約経緯: 約10年前に賃貸借契約締結、今回増額を検討
■新規賃料との違いが表れる点
1. 賃料水準の違い
・近隣新規募集相場:11,000円〜12,000円/坪 (←新規賃料水準)
・当該区画の現状賃料:8,500円/坪
・当該区画の継続賃料:10,500円/坪
2. 継続賃料ならではの考慮要素
・10年前の契約時からの経済環境の変化
・長期入居による賃貸借関係の安定性
3. 賃料格差の背景
・契約当時と現在の市場環境の違い
・当該テナントとの継続的な賃借関係
■実務上の示唆
1. 新規相場との乖離だけで判断しない
・契約経緯の重要性
・継続性の価値
・個別事情の考慮
2. 総合的な判断の必要性
・経済事情の変動
・賃貸借関係の経緯
・将来の見通し
■継続賃料の評価手法
1. 差額配分法 – 新規賃料と従前の賃料との差額を基に算定 – 賃貸人と賃借人で合理的に配分
2. スライド法 – 従前の賃料に変動率を乗じて算定 – 物価変動等の経済指標を考慮
3. 利回り法 – 投資採算性を考慮 – 期待利回りに基づく算定
■実務上の留意点
1. 依頼者への説明
・新規賃料との違いを明確に
・継続賃料の特性を丁寧に説明
・実現可能な増額幅の見通しを示す
2. 資料収集のポイント
・賃料改定の履歴
・周辺相場の動向
・経済指標の変動
■当社の取り組み 当社では、継続賃料評価において、以下の点を重視しています
・詳細な市場分析
・豊富な取引事例の活用
・経済指標の適切な選択
次回は「直近合意時点と現状賃料の重要性」について解説します。
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大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。