都心のタワーマンションにおける賃料増額について
相談の経緯と内容
都心の高級タワーマンションの一室(約100㎡)について、10年ほど前に締結された契約賃料が現在の相場と比較してかなり低い水準にあるのではないかという相談が寄せられました。評価の結果、現在の新規相場賃料は現状賃料の約2倍の水準に達していることが判明しました。また、マンション全体では新規募集賃料が上昇する一方で、既存居住者の更新賃料との間に乖離が生じており、物件全体のバランスを保つためには既存居住者に対しても更新時に増額を打診する必要性が生じています。
不動産鑑定士の対応
従来、住居系の賃料増額については居住権保護の観点から、裁判になった場合には借手優位な判断がくだされる傾向がありました。しかし、都心の高級タワーマンションについては、土地価格の上昇率が高く、物件価格も高騰している状況にあります。さらに、所有者側の固定資産税負担も増大しており、これらの要素を総合的に勘案した適正な賃料評価が求められています。
評価のポイント
最近の市場動向として注目すべきは、国内の賃貸住宅特化型不動産投資信託(REIT)の公表資料によると、2023年8月〜2024年1月の期間に更新対象となった物件の約5割に賃料引き上げを打診し、そのうち約66%の借手が増額を容認したという事実です。これは住宅賃料市場において、特に高級物件を中心に適正な増額が認められる環境が整ってきたことを示しています。都心の高級タワーマンションにおいては、物件の希少性や周辺環境の変化、維持管理コストの上昇なども考慮した上で、合理的な範囲内での賃料増額が検討できる状況になってきたと言えるでしょう。

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。