小区画店舗における賃料改定の戦略的アプローチ
相談の経緯と内容
小区画の店舗における賃料改定の依頼が寄せられました。
本件は、現状賃料の総額が小さいため、弁護士費用や鑑定費用を考慮するとコストパフォーマンスが良くない案件でした。
また、継続賃料の増額については、賃料総額自体が低額であることから、増額幅も金額ベースで見ると大きな改善が期待できない状況にありました。
このような小規模案件において、従来通りの継続賃料評価では費用対効果の観点から適切な解決策を見出すことが困難でした。
不動産鑑定士の対応
弁護士からは当初、継続賃料の評価依頼を受けていました。
しかし、試算の結果、継続賃料ベースではあまり増額が見込めないことが判明したため、評価手法を新規賃料の評価に変更することを提案しました。
新規賃料については現状賃料と比較して約2倍の水準が見込めるため、最終的に新規賃料による評価を実施することになりました。
この変更により、賃料改定交渉における有力な根拠資料を提供することが可能となりました。
評価のポイント
不動産鑑定評価には数十万円の報酬が必要であるため、小区画店舗の賃料増額においては、継続賃料を精密に算定したとしても鑑定コストに見合う成果が期待できないケースが少なくありません。また、継続賃料は性質上、新規賃料を上回ることはほとんどありません。
このような場合、新規賃料の評価を活用する手法が有効です。現状賃料と新規賃料に相当の乖離があり、相手方も多少の増額は避けられないと認識している状況では、新規賃料評価により「本来これだけの賃料が取れる区画である」ことを明示し、妥協点を探る交渉戦略が効果的です。
この手法により、両当事者とも訴訟費用などの無用なコストを回避でき、合理的な解決を図ることが可能となります。
小規模案件においては、このような戦略的アプローチが実務上重要となります。

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。