15年据え置きのサブリース賃料を約20%アップと鑑定評価した事例|郊外物件でも物価上昇を根拠に賃料改定の余地あり
はじめに(本件の概要)
本件は、地価上昇が限定的な大阪市内南部の郊外エリアにおいて、物価上昇(特に建設工事費指数の約40%上昇)を主な根拠として、約15年間据え置かれたサブリース賃料の継続賃料を現行比約20%上昇と鑑定評価した事例です。
「地価が上がっていない郊外では賃料改定は難しい」と思われがちですが、マクロ経済指標を適切に活用することで、鑑定上は相応の増額評価が可能な場合があります。
事案の概要
物件: 大阪市内南部のベッドタウンに所在するワンルームマンション
地域特性: 高齢化・人口減少傾向、地価上昇は限定的
契約の経緯: リーマンショック後の市場低迷期にサブリース契約を締結。以降、約15年間にわたり賃料改定なし
問題の核心: 現行賃料が現在の市場環境に照らして適正かどうかが問われた
鑑定手法と試算結果
物件: 大阪市内南部のベッドタウンに所在するワンルームマンション
地域特性: 高齢化・人口減少傾向、地価上昇は限定的
契約の経緯: リーマンショック後の市場低迷期にサブリース契約を締結。以降、約15年間にわたり賃料改定なし
問題の核心: 現行賃料が現在の市場環境に照らして適正かどうかが問われた
鑑定手法と試算結果
継続賃料の算定にあたり、2つの手法で検証しました。
① 差額配分法:約15%のアップ
現在の新規賃料相当額と実際支払賃料の差額を配分する手法です。対象エリアの不動産価値が大きく上昇していないことを適切に反映した結果、約15%のアップという試算となりました。
② スライド法:20%超のアップ
地価公示・地価調査などの公的指標や賃料指数は、地域特性を反映して大きな上昇を示していません。しかし、マクロ経済指標に目を向けると、状況は異なります。特に建設工事費指数は40%近く上昇していました。建設工事費の大幅な上昇は、建物の再調達価格や維持管理コストに直接的な影響を及ぼしており、これを反映した結果、スライド法では20%超のアップという試算となりました。
最終的な鑑定評価額
各手法の試算を総合的に検討した結果、当初賃料から約20%上昇した水準を継続賃料の鑑定評価額として算出しました。
なお、この評価額はあくまで鑑定士としての専門的判断に基づく算出結果であり、実際の賃料改定の合意内容とは別のものです。
判断の根拠は以下の3点です。
- 地域特性の認識 ── 郊外エリアとして地価・賃料市場の上昇が限定的であることを十分に反映した
- 物価上昇の影響 ── 消費者物価・建設工事費の大幅な上昇は賃貸経営のコスト構造に実質的な影響を与えており、無視できないと判断した
- 長期据え置きの考慮 ── 約15年間という長期にわたる据え置きの間の経済環境の変化を適切に反映する必要があると判断した
差額配分法(約15%)とスライド法(20%超)の間に乖離が見られましたが、両手法がそれぞれ「市場実態」と「コスト実態」という異なる側面を反映していることを考慮し、最終的には約20%上昇という結論に至りました。
実務上のポイント
本事例から得られる示唆は以下の通りです。
郊外物件でも賃料改定の余地はある 地価上昇が限定的なエリアでも、物価上昇という別の観点から賃料改定の合理性を見出せる場合があります。
建設工事費指数の上昇を見落とさない 建設工事費の約40%上昇は、建物を保有・維持するコストの増加を意味します。賃貸人の経営コストが上昇している以上、これを賃料に反映させることには合理性があります。長期据え置き賃料は見直しの好機 リーマンショック後の低迷期に設定された賃料が長期間据え置かれているケースでは、その間の経済環境の変化を総合的に評価することで、相応の賃料改定が可能となる場合があります。

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。