相場より低い賃料が売買交渉の落とし穴に|関係者間売買における鑑定活用事例
はじめに
長年の取引関係や人間関係から、相場より大幅に低い賃料で賃貸借契約を結んでいるケースがあります。こうした「関係者間の賃料設定」は、いざ売買となった際に思わぬ落とし穴になることがあります。
本件は、賃借人が賃貸人から工場を買い取る交渉において、現状賃料の低さが売買価格を不当に押し下げるリスクがあったため、限定価格の算出と新規賃料の評価を組み合わせて適正水準を示した事例です。
事案の概要
- 物件: 工場
- 依頼者: オーナー(賃貸人)側の弁護士
- 状況: 賃借人がオーナーから工場を買い取りたい意向。もともと関係性があったため、賃料は相場より大幅に低く設定されていた
- 問題の核心: 現状の低い賃料をそのまま収益価格の算定に使うと、売買価格が実態より大幅に低くなってしまう
評価上の問題:収益価格が実態を反映しない
賃貸不動産については収益価格を求めますが、この収益価格は、その物件から得られる賃料収入をもとに算出します。そのため、賃料が相場より大幅に低く設定されている場合、収益価格も実態より低く出てしまいます。
本件では、現状賃料をもとに算出した収益価格が、積算価格(土地・建物の原価から求めた価格)の約半分程度にとどまりました。この収益価格をそのまま売買価格の根拠とすることは、オーナー側にとって著しく不利となります。
鑑定の工夫:3つのアプローチで適正水準を示す
① 積算価格を重視した評価
現状賃料が相場より低いことによる収益価格の歪みを考慮し、積算価格をより重視した評価を行いました。
② 限定価格の算出
本件は賃借人が既に工場として使用しており、賃借人にとって特別な価値(移転コストの回避など)が存在します。この点を考慮し、収益価格と積算価格の中間水準を限定価格として算出しました。相手方も納得できる中立的なロジックのもと、オーナー側に不利にならない公正な水準を導きました。
③ 新規賃料の評価
現状賃料が相場より大幅に低いことを客観的に示すため、現在の市場水準に基づく新規賃料も算出しました。新規賃料は現状賃料の約50%近く上の水準となり、「現状賃料が異常に低い」という根拠を数字で裏付けました。
本事例のポイント
関係者間の低賃料は売買時に不利になる 親族・知人・長年の取引先との間で相場より低く設定した賃料は、売買交渉の場で収益価格を押し下げる要因になります。「安くしてあげた」という好意が、いざ売却となった際に自分に不利に働くケースがあります。
収益価格だけでなく積算価格・限定価格の活用を 収益価格が実態を反映していない場合、積算価格や限定価格という別の評価手法を組み合わせることで、より適正な売買価格の根拠を示すことができます。どの手法を重視するかという判断が、鑑定士の専門性の見せどころです。
新規賃料の評価が交渉の補強材料になる 現状賃料の低さを指摘するだけでなく、「本来の市場賃料はこの水準」という客観的な数字を示すことで、相手方を説得するロジックが強化されます。
弁護士の先生方へ
関係者間売買(親族間・長年の取引先など)では、賃料設定の経緯が売買価格の評価に大きく影響することがあります。特に以下のようなケースではご相談ください。
- 賃料が相場より低く設定されており、売買価格の算定に影響が出そうな案件
- 賃借人が賃貸人から不動産を買い取る交渉
- 収益価格と積算価格に大きな乖離が生じている案件
📞 06-6195-6537(平日9:00〜17:00) ✉️ info@ageha-kantei.jp

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。