実績・事例と専門知識

賃料増減額請求における不動産鑑定評価手法の選択

賃料増減額請求訴訟において、裁判所が継続賃料を判断する際、不動産鑑定士による鑑定意見書が重要な役割を果たします。不動産鑑定士は、差額配分法、スライド法といった手法を用いて継続賃料を試算しますが、これらの手法の選択と配分割合が争点となることがあります。

近年の判例では、差額配分法とスライド法の併用が主流となっています。東京地裁平成30年1月30日判決では、差額配分法とスライド法を併用し、それぞれ50%ずつの割合で採用しました。一方、大阪地裁平成29年4月27日判決では、差額配分法を70%、スライド法を30%の割合で採用しています。

利回り法については、賃料増減額請求訴訟においては、差額配分法やスライド法ほど重視されない傾向にあります。これは、利回り法が主に収益不動産の評価に用いられ、賃貸市場の実勢を直接的に反映しにくいためです。

不動産鑑定士としては、物件の特性や賃貸市場の動向を踏まえ、適切な評価手法を選択し、合理的な配分割合を設定することが求められます。特に、差額配分法とスライド法の選択と配分割合については、以下の点を考慮する必要があります。

  1. 差額配分法は、賃貸市場の実勢を直接的に反映できるため、賃貸事例が豊富な地域では高い割合で採用される傾向にあります。
  2. スライド法は、賃料の急激な変動を避ける効果があるため、賃貸人と賃借人の契約関係の継続性を尊重する観点から、一定の割合で採用されることが多いです。
  3. 差額配分法とスライド法の配分割合は、対象不動産の特性や賃貸市場の動向によって異なりますが、近年の判例では、差額配分法が50%~80%、スライド法が20%~50%の範囲で設定されることが多いです。

この記事を書いた人

酒井 龍太郎

アゲハ総合鑑定株式会社 代表取締役

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。

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