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賃料増額訴訟における落とし穴:経済指標と直近合意時点の罠

賃料増額訴訟において、新規賃料と現行賃料の乖離や契約継続期間の長さだけで安易に増額の可能性を判断することは危険です。特に、スライド法を用いる際には、直近合意時点と経済指標の関係に細心の注意を払う必要があります。

典型的な落とし穴として、リーマンショック後の事例が挙げられます。ショック直後に大幅な賃料引き下げを行ったオーナーの場合、直近合意時点がリーマンショック直後に設定されることがあります。この時点では、まだ経済指標が下落していない可能性が高いのです。

つまり、賃料自体は低く設定されているにもかかわらず、直近合意時点の経済指標が比較的高い水準にあるため、現在時点とのスライド指数の差が小さくなってしまいます。結果として、スライド法による試算賃料が予想外に低くなる事態が生じ得るのです。

一方、差額配分法では新規賃料と現行賃料の差に着目するため、このような罠に陥りにくい傾向があります。しかし、裁判所がスライド法と差額配分法を併用する傾向にある現状では、スライド法の結果が全体の評価に大きな影響を与える可能性があります。

このような事態を回避するためには、以下の点に注意が必要です:

  1. 直近合意時点の慎重な特定
  2. 経済指標の推移の詳細な分析
  3. スライド法と差額配分法の結果の比較検討
  4. 必要に応じて、他の補完的な評価方法の検討

賃料増額訴訟を成功に導くためには、単純な指標や期間だけでなく、経済状況の変遷と賃料設定の関係性を丁寧に分析することが不可欠です。特に、経済的な激変期を経ている物件については、より慎重な検討が求められます。 弁護士の皆様におかれましては、このような複雑な要因を適切に考慮し、依頼者に最適なアドバイスを提供することが重要です。必要に応じて不動産鑑定士と連携し、多角的な視点から事案を分析することをお勧めします。

この記事を書いた人

酒井 龍太郎

アゲハ総合鑑定株式会社 代表取締役

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。

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