「相場より安い」は本当か|継続賃料の評価が不動産鑑定士にしかできない理由
はじめに
「ネットで調べたら周辺の相場はもっと高い。今の賃料は明らかに安すぎる。」
賃料の見直しを考えた地主様からよくお聞きする言葉です。確かに、周辺の募集賃料と比べると現在の賃料が低く見えることはよくあります。しかし、賃料増額の交渉や調停の場では、この「相場調べ」だけでは通用しません。
その理由が、新規賃料と継続賃料の違いにあります。
新規賃料と継続賃料は別物
新規賃料とは、新たに賃貸借契約を結ぶ際に設定される賃料です。ネットや不動産会社で調べた募集賃料はこれにあたります。
一方、継続賃料とは、既存の賃貸借契約が継続している状態で見直す賃料のことです。借地借家法では、現行賃料が不相当になった場合に増減額請求ができると定められていますが、この場合の適正賃料が「継続賃料」です。
この2つは、評価の方法も出てくる数字も大きく異なります。
なぜ継続賃料は新規相場まで上がらないのか
継続賃料の評価では、主に以下の手法が用いられます。
差額配分法 現在の新規賃料相場と現行賃料の差額を、貸主・借主双方に配分して求める手法です。差額の全額が増額されるわけではなく、双方に配分されるため、新規相場の水準には届かないケースがほとんどです。
スライド法 現行賃料を基準に、直近合意時点からの経済指数(地価・物価など)の変動率を反映して求める手法です。経済指数の変動幅が増額の上限となるため、新規相場とは異なる水準になります。 つまり、継続賃料は現行賃料をベースに評価するため、どの手法を使っても新規相場まで一気に上がることはほとんどありません。「相場より安い」は事実であっても、継続賃料として認められる増額幅は別の話なのです。
なぜ鑑定士の評価が必要なのか
まず前提として、差額配分法・スライド法といった継続賃料の各手法を正確に算出すること自体が、不動産鑑定士の専門的な業務です。
差額配分法では現在の新規賃料相場を正確に査定する必要があり、スライド法では適切な経済指数を選定・適用する知識が求められます。いずれも不動産鑑定士としての専門的な知識と実務経験があってはじめて正確に算出できるものです。
さらに、複数の手法を算出した上で、それぞれの結果にどの程度のウェイトを置くかという判断も求められます。差額配分法とスライド法で結果が大きく異なる場合、どちらをより重視するかによって最終的な評価額が変わります。この判断もまた、案件の個別事情を総合的に検討した上で行うものであり、ネットの相場情報や感覚的な判断では代替できません。
交渉・調停・訴訟の場では、こうした専門的な根拠に基づく鑑定評価書が、主張の裏付けとして機能します。
地主様・弁護士の先生方へ
「相場と比べて賃料が安い」と感じている場合でも、継続賃料としていくら増額できるかは、個別の事情によって大きく異なります。まずは専門家にご相談いただくことをお勧めします。
また、賃料増減額の交渉・調停案件を担当されている弁護士の先生方も、継続賃料の評価については鑑定士との早期連携が交渉を有利に進める鍵となります。
お気軽にご相談ください。
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大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。