実績・事例と専門知識

継続地代紛争の鍵は「直近合意時点」

はじめに

地価が上昇している都市部では、契約当初から長年低い水準に据え置かれてきた地代をめぐり、増額請求の紛争が増えています。こうした紛争では、どの評価手法をどの程度重視するかが結論を大きく左右し、その判断の出発点となるのが「直近合意時点」です。本稿では、貸主・借主双方の視点から、継続地代の評価で争点になりやすいポイントを整理します。

継続賃料の基本的な考え方

継続賃料の鑑定評価は、当事者が現行の地代を合意し適用した時点(直近合意時点)を出発点とし、その後の事情変更を踏まえて地代を見直すという考え方に立っています。評価手法には差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法があり、各試算賃料を契約の経緯や事情変更の内容に照らして比較衡量し、ウエイト付けを行います。

論点1:直近合意は成立しているか

契約当初から長期間が経過していても、途中で地代の改定が行われていることは少なくありません。改定時に覚書などの書面がなくても、改定後の地代の授受が継続していれば、実態として合意が成立していると評価される場合があります。

  • 借主側の視点:改定後の地代の授受が長く続いていることを根拠に、直近合意の成立を主張します。
  • 貸主側の視点:改定が一方的・暫定的なものであった、あるいは十分な協議を経ていないなど、合意と評価すべきでない事情を主張することが考えられます。

直近合意時点が認められるかどうかで、評価の出発点は数十年前から数年前へと大きく変わります。双方にとって最初の重要な争点です。

論点2:過去の低い地代をどう評価するか

改定後も地代が相場より低い水準にとどまっている場合、その乖離をどこまで考慮するかが争点になります。

  • 借主側の視点:改定時点で乖離は双方にとって既知であり、それを前提に合意している以上、乖離全体を改めて配分し直すことは合意を蒸し返すことになる、と主張します。私的自治の原則からも、一度成立した合意は尊重されるべきという考え方です。
  • 貸主側の視点:改定が小幅にとどまり乖離が解消されていないこと、また低い地代で合意した背景(当事者の関係性や交渉経緯など)を、事情として考慮すべきと主張することが考えられます。

鑑定評価では、直近合意時点以降の事情変更を中心に据えつつ、地代が低い水準となった経緯を配分率などの判断に反映させることになります。

論点3:合意からの期間とウエイト付け

スライド法は客観的な指標に基づく一方、期間が長くなると相場とのズレが積み重なります。差額配分法は新規地代との乖離を直接捉えられる一方、配分率の判定に評価者の判断が入りやすく、地価の急変動時には試算賃料が不安定になるという弱点があります。

なお、地価上昇局面では一般に差額配分法が増額を求める貸主側、スライド法が借主側の主張と結びつきやすくなります。地価下落局面ではこの関係が逆転することもあり、手法そのものに有利・不利があるわけではありません。

論点4:差額配分法の検証ポイント

差額配分法の前提となる新規地代は「基礎価格×期待利回り」で求めるため、次の点はどちらの立場からも検証が欠かせません。

  • 期待利回りの比較対象:J-REITや投資家調査の利回りは土地・建物一体の複合不動産のもので、土地のみの利回りより高く出る傾向があります。
  • 立地とリスクの関係:一般に、好立地ほどリスクは低く、利回りも低くなります。
  • 基礎価格との整合性:地価水準と期待利回りが整合しているかを確認します。高騰した地価に高い利回りを掛ければ、新規地代は過大になります。

配分率の根拠:乖離額のうち貸主に帰属させる割合について、契約の経緯を踏まえた具体的な根拠が示されているかを確認します。

弁護士の先生方へ:実務上のポイント

  • 改定の経緯と資料を早めに整理:振込記録、請求書・領収書、改定時の通知や交渉経過は、直近合意の成否を左右する重要な資料です。貸主側・借主側いずれの立場でも、早期の確認をおすすめします。
  • 相手方鑑定のウエイト付けの根拠を確認:どの手法をなぜ重視したのか、直近合意時点や契約の経緯を踏まえた説明になっているかが反論の糸口になります。
  • 利回りや配分率の出典・根拠を確認:数値の出典と、それが対象地に適したものかどうかは見落とされやすいポイントです。

おわりに

継続賃料は、数式だけでなく契約の経緯や当事者の合意をどう評価するかが問われる分野です。当社は「公平な評価と透明性のある取引」を軸に、貸主・借主いずれの立場のご相談にも対応しています。継続賃料や地代の紛争でお困りの際は、お気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

酒井 龍太郎

アゲハ総合鑑定株式会社 代表取締役

大学在学中の2005年に不動産鑑定士試験に合格。2007年3月 神戸大学法学部卒業。同年4月 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)へ入行し、退職する2015年まで不動産に関する実務に携わる。2017年3月 不動産鑑定士登録。調停・訴訟に特化した不動産鑑定士として、弁護士との協業実績多数。

弁護士向け不動産鑑定専門サイト

お問い合わせ

調停・裁判に特化した不動産鑑定ならお任せください。
不動産鑑定士が公正・中立な立場から鑑定いたします。